第2回 プローブ研究会 パネルディスカッション議事録

2006/07/01

○司会
東京海洋大学 海洋工学部 兵藤 哲朗
○パネリスト
東京大学大学院 工学系研究科羽藤英二
国土交通省国土技術政策総合研究所井坪慎二
パシフィックコンサルタンツ株式会社佐藤光
財団法人計量計画研究所牧村和彦
株式会社都市交通計画研究所田名部淳
山梨大学大学院 医学工学総合研究部佐々木邦明
○議事録
牧村<論点整理>
PP調査は、短期的な施策への活用だけではなく、将来の交通マスタープランの立案においても救世主となるデータである。
兵藤PP調査は付帯調査から本調査にしていくべきでしょう。 牧村さんの発表を受けてパネラーの方々一人ずつご意見お聞きしたい。
佐藤PP調査では質の高いデータを取得することができる。このPP調査の特徴をいかして狭域で適用する方向が考えられる。例えば、車の車線変更などが分かるようになれば、右折レーンの改良施策などでも使えるのではないか。
田名部今までは、日々のトリップデータを一定の期間で集計して、クライアントに示してきた経緯がある。しかしPP調査データを詳細に見ると、1ヶ月で1回しか出現していないような施設間のトリップが全体の半分程度を占めていた。このように現実の交通状況は、日々同じODトリップの繰り返しではないのにも関わらず、1日で取得したデータを元に議論をして良いのか。day to dayのデータが持つ意味を計画にどのように反映させていくのかを、そろそろ真剣に考えないといけない時期に来ていると思う。
佐々木自分の経験では、フィリピンではデバイスのコストが非常に高かった。調査をより普及させるためにはデバイスを安くし、仕様の共通化が必要であると思う。こうした課題はフィリピン以外でもあるはず。
羽藤PP調査実施のための制度が整っていなければ、大きな枠で調査が浸透していかない。例えばPT調査の一部は携帯電話やウエブを使ったPP調査で代替するなどが考えられる。
アンケートベースのPT調査は、回収率や精度の問題が深刻となっていることもあり、メジャーチェンジの時期がきているのではないか。そのための議論を進め、制度を考えていかないといけない。私としては、メジャーチェンジ出来ると考えている。
データの標準化、調査機器の低価格化について、一体的に整備できているだろうか?諸外国では、トライアンドエラーで進めている。日本では、単発的にやってそれなりの成果は出ているが一体的に整備できているとは言い難い。世界的に見ると、非常識な状態と見えるのかもしれない。
兵藤アメリカでは長期計画を4〜5年で更新している。日本でも、こうした体制が必要となっているのはないか。更新する際のデータとしてPP調査は有効であると思う。
最近では、メジャーなパッケージソフトにもGPSデータの取り込み機能があるくらい、GPSデータはポピュラーになっている。この現状を考えると日本は遅れていると思う。
井坪メジャーチェンジできない理由はいくつかあるが、その一つに総務省への申請があると思う。承認統計調査として調査をするには総務省に許可を得る必要があるが、質問内容の変更や質問の追加があると、国民負担の観点から承認されない可能性もある。ただ、総務省も国勢調査でいろいろ苦労しているようなので、このあたりの制度の見直しが行われる可能性はあると思う。 また、PP調査データの代表性については、重要な問題であると思う。実務者同様に役所の人間もしっかりと勉強していく必要がある。ただ、役所では数年ごとに異動があり、PP調査どころかGPSも知らない人もいるのが現状である。PP調査を浸透させるには、今後ともプロポーザルの提案に盛り込むなり、積極的に話をしていくことも大事だと思う。
PPは調査ツールの一つなので、もっと普及してくれれば、メジャーチェンジに関する状況は変わるかもしれない。それには官と民が協力する体制が必要である。例えば民間でとったデータを国が買うといった形なら、総務省の問題もクリアでき、良いかもしれない。
牧村代表性の話について、具体的にはどういった項目を満たせていればクライアントとのニーズとして良いのか?是非井坪さんに聞いてみたい。現況では、ランダムサンプルで、抽出段階で統計的な精度がある一定条件で確保されていれば良いとしていた。抽出ベースではなく、トラカンなどの観測データは都市圏ベースでは主要な道路で把握されており、再現された交通量やOD量で代表性を検証するという考え方もある。
井坪そのあたりは十分に議論できていない。明確な回答はない。
田名部昨年度実施した奈良PPの結果で衝撃を受けたのは、ある断面でみた場合にセンサス一般交通量調査の対象となっている路線の分担率が6割であったこと。つまり、それ以外の交通は抜け道を利用していた。現況では起終点調査の拡大結果を観測交通量でチェックする構造となっているが、本当にそれで良いのか。今問われている代表性には、「クライアントが対外的に説明する際の根拠」と「統計学観点からの有意性」という2つの側面があると思われる。前者については有意性そのものが議論対象ではないためPPから得られるアウトプットのインパクトで補完できる可能性もあるが、後者に関しては技術者として一定の回答を用意する必要がある。
羽藤論点となっている代表性とは、アンケートベースの話で、全体の何%に配布していると問題ない、というものである。その結果のPTデータを正しいとして使っている。
PPデータでとれる経路データの代表性については、今まで議論したことがなかったと思う。真の代表性は、リンクについてどれくらいの人が、どんな目的で通っていて、その何%が観測できているのかと言うことだが、これはPT調査では全く観測できていない。従来はモデルを使って中間変数として推計していた。PP調査ではこの経路データが把握できる。
兵藤経路データが時間帯別にとれることが今までと大きく違う。交通量配分結果の精度をPPデータによってチェックすることが可能かもしれない。また、時間帯のデータもあるので、今後のモデルの作り方に与える影響も大きいのではないかと思う。
佐々木代表性について、PP調査によってデータの解像度が上がっている中で、そんなに代表性は必要だろうか。 解像度が高いPPデータでは、モデルに頼らず、データオリエンティッドな施策を検討ができると思う。長期プランとデータオリエンエンティッドなプランとを別に考えれば、そんなに代表性にこだわる必要はない。
兵藤長期プランに関するものと、データオリエンティッドなプランに関するものを分けて営業すれば良いのではないか。
佐藤将来の交通状況を予測していたが、将来ODというものは法律のように決まっている。それを各事務所で見直していると思うが、現実的にはOD交通量と一般交通量調査結果では3割〜4割違っている。
PPではより細かいデータを取っているので、既存のデータを補う方向ではなく、細かい施策で利用する方向が良いと思う。例えば、交通事故は約4割が交差点で起きている。そういうところの対策を考えるときに、PPデータを使えば良いのではと思う。
羽藤それはその通りで、細かい施策をデータオリエンティッドで考える方向は正しいと思う。
ただ、長期のマスタープランなどを考えるときには、人が直感的に分かるようなデータを元に作られることがある。例えば、高速道路の整備により、農産物が都市部まで何分で届くようになったとか、生活パターンがどのように変化するのかは、具体的な生活シナリオで語れると届く言葉になるだろう。PPデータは、人の行動を把握し、直感に訴えることができるデータであるので、マスタープラン作成の際にも使えるデータだと思う。
兵藤では、ここで一度フロアからの質問は。
関本(国土交通省国土技術政策総合研究所)
都市・地域整備局でも人の詳細な行動はわかっていない。例えば帰宅困難者の推定などしたいと考えている。今のPTで出来るレベルでは面白くないので、人間VICSのようなデータがあればと思っている。質問ではなくコメントになってしまったが。
牧村アメリカでは最近、携帯を使って渋滞情報を提供するビジネス(例えばボルチモア都市圏)、Pay-as-You Driveのような保険ビジネス、GPSによって車利用者の移動距離を把握し、課金するような実験(ポートランドやシアトル)が実施されている。
また、イギリスでは政府が民間(IT IS社)の保有する約5万台のプローブカーデータを購入し、政策に使っていることもある。こうした流れに日本でもなるのではないか。
兵藤ドイツでは民間会社が、交通管制の情報提供サービスをしている。同じ会社がケープタウンでも同様なサービスを提供しているが、データの処理はドイツで実施して現地に結果を送っている。このように国境を越えてリアルタイムにデータ処理ができる時代になってきた。
こうした流れの中で、この研究会を世間にどうPRするのかを考えていかないといけない。そのアイデアについてはどうか。
牧村どんどん実績を重ねることが必要だと思う。今年からCO2の削減アクションプログラムの中でモビリティマネジメントが今後全国的に展開していく。その効果把握にPP調査を使うことが考えられる。また、旧運輸とNEDOによる省エネ事業は大きな予算が付いており、PP調査を組み込んでいくことが期待できる分野である。さらに言えば東京オリンピックといったイベントに使うことも視野に入れると、もっと大きな展開やPR効果も高く、良いのではないか。
井坪今の提案は重要だと思う。最近の業務発注の形態として多いのはプロポーザル形式だと思うが、PPも一つのツールとして認識したうえで、提案にもりこんで行くことも重要である。
発注者サイドは「何が分かって、何が良くなるのか」というアウトプットを要求することが多いので、そのあたりを十分認識した上で示していくこと重要である。例えば、奈良県では東西方向の道路整備状況が悪く、抜け道が使われることが多いが、社会実験によって抜け道の利用状況や高速道路への転換状況が分かるとか。計測のツールはPP以外にもあるが、その一つとしてPP調査は非常に有効であると思う。
佐々木フィリピン国鉄でも貨物車のメンテナンスのための調査にPPを使ってみるという話がある。予算に対して非常に高価な機材であるにもかかわらず数台買いたいと言っていた。調査のニーズは思いがけない所に転がっていると思う。
田名部PP調査の説明の際に問題になるのが、既存の調査データを利用することができないこと。学会発表もダメと言われたことがあった。クライアントへの説明の際に実際のシステム、アウトプット例を見てもらえたら、営業の際にも非常に役にたつ。共通で使うことのできるデータを研究会として整備することも考えていく必要があるのではないか。
佐藤PPデータで一番魅力なのは軌跡データがとれることだと思う。OD、経路がわかる、ということをどう使うのかというのがポイント。担当の調査係長さんに何を売っていくのかを考えないといけない。
羽藤研究会としては、一つは垂直化という問題を考えている。マニュアル作成等で調査システムを標準化したい。それは当然オンライン化されていることが大事である。HPに行けばマニュアルがある、デモシステムがある、解析ができる、といった状態が理想的と考える。とりあえず今年度は紙ベースのマニュアルを作りたい。また同時に分析の標準化も進める予定である。
道路整備が難しい地域では道路整備が進まない。施策のニーズを届く言葉で言語化し、住民、県、議員にアピールすることが必要である。PP調査はそのバックデータとして重要ではないかと思う。この研究会では事例集を出来るだけ作り、PP調査ポータルサイトで公開していきたい。そこのページに来れば、PP調査の全てがわかるという形をつくるとよいと思う。
制度の話が出ているが、道州レベルから局地的なレベルまで、PP調査によって意味のあるデータが出てくると、標準技術として扱ってもらえるのではないか。PPには限らないが、住民と共有化すべき政策目標のアクトカムの管理に例えば予算の数%は調査費として計上するといった枠組みが有効かもしれない。
兵藤では時間も来ましたので、最後に羽藤先生から締めの言葉をいただきましょう。
羽藤PP調査普及のためには、いろいろな調査事例を出していくことが大事である。そして、切り口の新しい政策効果をどんどんみせていくことだろう。また、年度内にはマニュアル作成も考えていますので、皆さんよろしくお願いします。


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